小児抜歯の偶発症

こんにちは

小林デンタルクリニックの院長 小林陽介です。

今回は、小児抜歯の偶発症についてご説明します。

まずは、主な偶発症の一覧をご覧ください。

小児抜歯の偶発症

偶発症 内容 特記事項
歯牙片の残留 歯根が永久歯により吸収され脆弱なため、歯根が折れやすく、破折片が歯槽内に残ることがある。 乳歯の歯根吸収が不均等な場合に多い。
永久歯胚の損傷 後継永久歯の歯胚が近くにあり、抜歯器具が誤って接触すると形態異常や萌出障害を招く。 特に上顎前歯部、下顎第二乳臼歯部に注意。
歯槽骨骨折 骨が柔らかく未発達なため、無理な器具操作で骨片がはがれることがある。 緊密に保持されている乳臼歯で注意。
術後出血 通常は少ないが、血液疾患やビタミンK欠乏があると出血が止まりにくい。 初回問診と既往歴確認が重要。
疼痛・腫脹 術後の炎症反応として生じる。感染性腫脹の場合は抗菌薬が必要。 清掃不良やう蝕による感染拡大に注意。
ドライソケット(稀) 小児では稀だが、10歳以上の永久歯抜歯では報告例あり。 抜歯創が乾燥し、強い疼痛が出現。
頬粘膜の損傷 麻酔後の咬傷。感覚の戻らないうちに頬粘膜や舌を噛むことがある。 麻酔後の保護者指導が必須。
この中でも、今回は歯牙片の残留と、永久歯胚の損傷、術後の出血について解説します。

 

歯牙片が残りやすい理由

理由 詳細
歯根の脆弱性 生え変わりの時期の乳歯や若年永久歯では、歯根が吸収されていたり、まだ完成していないため、抜歯中に歯冠と根が分離しやすい。
骨が柔らかい 小児の顎骨は柔軟性がある一方で、歯根がしっかりと骨に包まれており、歯根だけが骨内に折れて残ることがある。
歯根が細く湾曲 特に乳犬歯や乳臼歯は歯根が細くて曲がっており、折れやすい。
癒着・癒合歯 歯根が骨と癒着していたり、隣の歯と癒合していると完全に抜歯するのが困難。
器具の把持が難しい 乳歯は小さく、器具でつかみにくいため、破折のリスクが上がる。

 

 

🩺 歯牙片が残った場合の対応

対応 説明
小さな片で、感染兆候がなければ経過観察 特に吸収中の乳歯の根片であれば、自然に排出されたり吸収されたりすることが多い。定期検診などで
感染・炎症がある場合は除去 腫脹や痛み、膿瘍形成などがあれば、早期に外科的除去を検討。

このように、歯牙片が残りやすく、また残った歯牙片が悪さをしない限り、積極的に除去する必要はありません。

残った歯牙片は、自然に吸収されるか、自然に排出されます。神経質になる必要はありません。

 

永久歯胚への配慮

さらに詳しく説明しますと、虫歯などで抜歯を余儀なくされる場合などでは、その周囲には炎症が引き起こされています。炎症が起こると、炎症性の肉芽組織が形成されます。

抜歯の際に出血が止まらない場合など、この炎症性の肉芽組織が残っている場合が多いのですが、乳歯の抜歯の場合、その下には永久歯の歯胚(永久歯の卵)が存在します。ですので、肉芽組織を取り除こうとして、器具で掻爬しようとすると永久歯の歯胚を損傷してしまうことがあり、この損傷は恒久的に残るので、基本的には掻爬はせず、ガーゼを噛む圧迫止血を行うこととなります。

 

抜歯後出血への対応

このような理由で、乳歯の抜歯後はダラダラと出血が続く場合があります。クリニックで止血をコントロールした後に帰宅していただきますが、帰宅後もお口中で血が滲むことは数日間続きます。

特に抜歯後、麻酔の切れる2時間後くらいからは、出血が目立つ場合があります。局所麻酔の中には、血管収縮薬であるエピネフリンが含有されています。麻酔が効いている間は、血管収縮薬も効いており、それ即ち出血も少なくなっていますが、麻酔が切れ始める頃は、血管収縮薬も切れ始めるために、止まっていた出血が再び出てきたと感じます。

こうした際に、どう対処したらいいでしょうか?

当院では、清潔なガーゼやティッシュペーパーなどを水で濡らし、15分から20分ほど強く噛んでいただきます。これは止血の基本の圧迫止血です。これを繰り返して徐々に出血はおさまってきます。

大人の場合は、そのくらいの時間であれば、強く噛めますが、お子さんの場合は、筋力や集中力が続かず噛み続けることができなくて、ただお口に挟んでいるだけとなっている場合も少なくありません。これでは圧迫ができておらず、止血効果が望めません。親御さんは、お子さんがしっかりと噛んでいるかを注意深く観察してください。

また、抜歯後はお口の中に傷できます。手や足擦り傷でもジュクジュクしたり、血がにみむように、お口の中も同様です。数日間、血が出ている感じがする、つばに血が混じるなど、そういったことが生じることは当然ですので、あまり気になさらないようにしてください。就寝時、心配であれば寝具が汚れないよに、枕元にバスタオルなどを敷いておやすみください。

 

最後に、幸せな乳歯の抜歯というものは、順調に永久歯が成長し生え変わりの時期を迎えた抜歯です。

そうではない抜歯、虫歯などで生え変わりを待たずして抜かなければならなくなったような場合というのはできる限り避けなければいけません。お口の中に抜かないといけない虫歯があるようなお子様は、本当に少なくなりました。しかしゼロにはなっていない現状もあります。お子様のお口の中の健康を守るのは親御さんの責務です。

当院では、そうした不幸な抜歯をできる限り減らしたいと取り組んでおります。1歳半検診を受けられて、2歳を迎えるまでの間に初めての歯医者さんの受診をお勧めします。そうした幼い時期から歯医者さんになれてもらい、健康なお口の中の維持に努めていきましょう。

 

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